騒然とし始めた領域内を、さらに進んでいく。
初めてここを訪れ、扉を開けようとした時の恐怖は、今では全く無い。
今はむしろ、すごく、辛い。
何の躊躇もなく、洋館内に踏み込んだ。
ホールの中央に、学ラン姿のランちゃんはいた。
遠くも近くもない微妙な距離で立ち止まる。
ホールの奥にある階段には、白薔薇学園の制服を着たオリが腰かけていた。
……よかった。
まだオリに何もされてなくて。
傷ついてなくて、よかった。
オリと目が合った。
もう。なんて顔してるの。
幽霊でも見たみたいな顔。
仕方なさそうに微笑めば、その顔はさらにへんてこに歪んだ。
『もし気づいちゃっても、知らないフリをしてね』
ごめんね。
せっかく3日前はずっと、オウサマと一緒に静観してくれていたのに。
今日は、フリをできなくさせちゃうかもしれない。
ああ言ったのは私のほうなのに、自分勝手だよね。
でも、もう、独りで溜め込むのはやめにしたの。
どんな結末になったって、皆と迎えたい。
背中越しにいくつもの足音が聞こえてきた。
おそらくあず兄たちが、私を追いかけて洋館に立ち入ったのだろう。



