「でも……あ、あの人が言ってたんだ!」
「そ、そうだそうだ!!あの人が嘘をつくわけねぇ!」
「敵より仲間の言葉を信用するに決まってんだろ!」
「それも演技なんじゃねぇのか!?」
全開になってた扉から、噛みついてくる。
その叫びは声量がバラバラで。
不信感が垣間見えた。
「3日前に萌奈さんも同じようなこと言ってたよな?」
「け、けど、萌奈さんを痛めつけたのは、双雷の奴らだろ!?」
「一体どうなってんだよ……」
「双雷は最低最悪な暴走族で、俺ら神亀とも仲悪いんじゃねぇのか……?」
神亀の下っ端も、ざわつき出す。
混乱していても、未だに牙は折れていない。
敵対心はどちらにも残ってる。
私はおもむろにヘルメットを拾った。
物音ひとつ立たない動作は、危険な領域にふさわしくなく、浮いていた。
錯綜と困惑でいっぱいいっぱいになっている下っ端たちには気づかれずとも、あず兄たちは覆われた。
透明に洗練された、雰囲気に。
ひしひしと高ぶっていた感情が鎮まり、肩の力が抜けていく。
こちら側だけ、空気の質がガラリと一変した。
あず兄たちの視線を感じる。
私は皆のことは見ずに、前を見据えた。



