絶対領域




争うことに意味などなかったのに、どちらの下っ端たちも無理やり意味を持たせようとしてる。


このまま関係を悪化させるわけにはいかない。



「お前たち、何やってんだっ!!」



息を吸い込んだと同時に、右耳がキーンとした。


あず兄の怒気がまき散らされる。

一気に静寂に包まれた。



「なぜたまり場を任せたはずのお前たちがここにいて、双雷の奴らに喧嘩を売ってるんだ」


「おかしいなぁ。僕たち神亀とユカたち双雷の下っ端たちって、仲悪かったっけ~?」



しん兄とゆーちゃんから、じわじわと冷気が立ち込めてくる。


神亀の下っ端はピシリと硬直し、たじろいでしまう。



たった一人、オウサマは、やや後ろに停めたバイクに寄りかかりながら傍観していた。


右に3つ、左に5つ付けたピアスと、前髪を留めてるヘアピンが、妖しく照らされてる。




「『俺らに任せてください』っつってたのは、このことだったのか?」


「……お、俺たちは、神亀のために……」


「は?なんだそれ」



食い気味にせーちゃんの低音が地を這う。



「お前たち双雷もそうなのかよ」



下っ端たちは視線を泳がせるばかり。

返答はいくら待っても、返ってこなかった。



「これのどこが神亀のためだ、双雷のためだ。意味わかんねぇ。頭沸いてんじゃねぇのか?」


「正義を振りかざすのなら、まず、真偽を確かめてからが基本だよ。正義っていうのは、“悪”と表裏一体だからね」



毒々しいせーちゃんに続いて、バンちゃんも表向き優しく諭す。


けれど、わかる人にはわかる。

“悪魔”らしき、禍々しい面影。


殺気と似通った感覚に、皮膚が少しカサついた。