颯爽と越えた境界線は、ひどくあっけない。
一気に酸素が薄くなった気がした。
どこか懐かしく、決して居心地は良くない。
ここが、久しぶりに訪れた、双雷の縄張り。
閑散としていた寂れた街並みの奥に進みにつれ、だんだんと喧噪が明瞭になってくる。
悪い予感が、当たってしまった。
豪華な装飾が施された、古びた洋館の前。
何台ものバイクが乱雑に放り出され、殺る気に満ちた連中が群がっている。
神亀の下っ端だ。
やっぱり双雷のたまり場に来てたんだ。
「お前ら行くぞ!!」
発狂が鼓膜を突き破りかけた。
まずい。
今まさに突入しようとしてる。
「チッ、あいつら……!」
「あず兄!もっとスピード出して!」
「任せろ!」
エンジンを奮い立たせ、先頭で近道を案内してくれたオウサマを通り越した。
余裕で交通違反だ。
ここに警察がいなくてよかった。
右腕をしっかりとあず兄に巻き付け、左手でヘルメットを取る。
風力によって乱れたミルクティー色の髪の毛を、いちいち抑えるのは面倒くさい。
「あず兄、ヘルメット壊れたらごめんね」
文化祭前夜にゆーちゃんのヘルメットを投げたら、軽く怒られちゃったから、初めに注意喚起しとく。
そうです、これからアレをやるのです。
「ははっ、いいさ別に。新しく萌奈専用の買ってやるよ」
「それ、オルゴールの代わりとか言わないよね?」
「…………は?んなわけねぇだろ」
長い間があったよ?図星?
怖いんだけど。
……まあいっか。



