本当は3日前に、下っ端たちを紅組から解放するはずだったのに。
自分が情けない。
対立が曖昧に終わったせいもあり、紅組が……裏切り者が、オリたちに何をするかわからない。
こうしてる間にも、居場所を奪われかけてるかもしれない。
そんなの、嫌だ。
真意は不明なままだけれど、裏切り者に見当がついてしまった今。
また失態を繰り返さないためにも、一刻も早く解決しなくちゃ。
何度トラウマに蝕まれたって。
どれだけの危険が降りかかったって。
私は行くよ。
皆を守るためなら、何も、怖くない。
「……萌奈ちゃん」
「っ、なに?」
いつになくバンちゃんは真剣な面持ちで見据えてくる。
「独りで行こうとしたらいけないよ」
ドキリとした。
な、なんで、バレたんだろう。
バンちゃんの察知能力は、並外れてる。
「記憶喪失の間に勝手に話しちゃった俺が言うのもアレだけど……約束、覚えてるよね?」
バンちゃんとの、約束。
ぐちゃぐちゃに混濁された記憶の箱から、ふわりふわり、切れ端が浮かんでくる。
『今週末の対立を阻止できなかったり、それ以降も紅組が動き続けたりしたら、皆にも情報を共有する』
あぁ、思い出せた。
そうだ、バンちゃんは私のわがままに妥協してくれたんだ。
そして身勝手なわがままが、最悪な結果をもたらしてしまった。
それでも、オウサマが以前『トーキング』してたことを想起するんだ。
『無知は罪、と言うが……何も知らなければ邪悪なエモーション、感情に我を失いかけることもなく、作り物だとしても平和な日々を過ごせたのだと考えると……やはりそのほうが幸せではないか』
皆もそうなんじゃないか。
苦痛を知らないほうが、皆の“普通”をほんの断片でも守れるんじゃないか、って。



