私は、誰?

“あなた”は、誰?



――もう、知っているでしょう?








きゅぅ、と左手の表面にかすかな感触を覚えた。


頭と心に棲んでいた苦痛が、だんだんと弱まり、散っていく。


地べたにつけたお尻と足が、冷たい。

消毒液の香りに、鼻がかゆくなった。



「ん……」



瞼に力をこめると、目尻から涙があふれた。


腕にうずめた顔をゆっくり上げていく。



ここは……?



少し視線を彷徨わせる。


その途中で、ベッドの上で眠っている男の子を捉えた。



「みーくん……っ」



あぁ、そうだ。

思い出した。



出会いも別れも、対立も黒幕も、記憶を喪失していたことも。


わからなかったことまで、全部。




『お前が、やったんだ!!』


『……守れて、よか、た……』



脳裏でどよめく声音に、オルゴールの崩壊した音が共鳴する。


あのオルゴールの天使はたった独り生き残っていたのに、私は“天使”としてでさえいられなくなっていた。




私の左手と、みーくんの右手。

繋がってるところがあったかくて。


無性に愛しくなる。



「みーくん」



普段より白い顔には、あまり傷痕が残っていない。


寝ている姿も苦しそうではなくて、安心した。



「目が覚めたら、『ごめん』も『ありがとう』も伝えさせてね」