動けないなら、せめてみーくんだけでも助けたい。


意を決して、止まったままだった腕を再度伸ばした。



「萌奈」


「え……?」



……なんで。


気づいたら、周りは真っ黒で。

血の匂いがした。



私が庇おうとしていたのに、なんで。


私の腕はみーくんの脇下あたりをかすめていて、代わりにみーくんの大きな手が私の背中に回されていた。



額が胸板に当たる。


学ランの上からでも、真新しい血痕がよく見えた。




「みーくん?」


「……っ、は」


「みーくん!やめて!」


「だいじょ……ぅあっ」




何が大丈夫なの?

全然大丈夫じゃないよ。


今、グサッて聞こえたよ。


ガラスが刺さったんじゃないの?



ねぇ。


「みーくんっ!」


私なんかのために傷つかないでよ。




落ちてきたガラスが、コンクリートにぶつかり、さらに砕ける。


破片は私とみーくんだけでなく、下っ端たちをも苦しめた。




ガラスの雨が止み、静寂と化す。




「やっと……」


「みぃ、く……?」



きつく抱きしめていたみーくんの腕が、緩んでいく。



「やっと、恩返しができた」



恩返し?

それってどういう……。



私に向けられた笑顔があまりに優しくて、聞こうとした言葉を呑み込んでしまった。



その表情は、どんどん歪んでいって。


私にもたれかかっていた体は、やがて生気を失ったように崩れた。



地面にみーくんが倒れ、細かい破片が一瞬浮く。




全身の血の気が引いた。