“あの時”と同じように、投じられたナイフで大切なもの全部、引き裂かれてしまうの?


もう、失いたくないよ。



早く避けなくちゃ。

なのに、足が竦んで動かせない。


逃げられない。




『……強く、なったな』


『……うん、強く、なったよ』



オリ、ごめん。

私、嘘ついてた。


こんな時に限って、トラウマに囚われて。



ちっとも強くなんてなかった。


弱くて、脆いままだったよ。




近づいてくるナイフを、ただ見つめる。


諦めの気持ちは微塵もないが、思考は一向に働かない。


どうしよう。

どうしたらいい?




「萌奈!」



雑音だらけの倉庫内に、一段とクリアに反響した。



“あの時”に『萌奈!』と呼んでくれた声とは、重ならない。


それでもなぜか、目が潤んだ。



「ど、して……」



たった1回の瞬き。

瞼を開いたら、目の前には。


ナイフの速度を超えて、機敏に立ちはだかっていた。



視界いっぱいに映る、学ラン。


小さな背中はいつもよりずっとたくましい。



「みーくん……っ」



どうしてここにいるの?


どうして私を守ってくれるの?



ナイフとの間隔は、既にほとんど無い。


反射神経がよく、すばしっこいみーくんでも、ここからかわしたり軌道変更したりするのは実質不可能。



やめて。

危ないよ。


逃げて!