「はっ、は……っ」
せっかく整えた息も、すぐに荒れていく。
さすがに50人くらいの下っ端相手に、1人で対処するのは無理あったか……。
わかってはいたんだけど、力量差は明々白々だったし、余裕だと自己暗示してた。
私もまだまだだな。
周囲を埋め尽くす、騒音と雄叫び。
耳障りな不協和音に隠れて、どこからかエンジン音が唸っていた。
このエンジン音って、バイクの……。
「1台じゃない。数台、こっちに来てる」
耳をすませば、よく聞こえる。
ここにいる以外にも下っ端がいたの?
それとも、パトロール中のしん兄とゆーちゃん?
どっちにしろ、私にメリットはない。
急がなきゃ。
無理やり足に力を加えて、立ち上がる。
若干ふらつくが、休んでる時間は残されていない。
再び動き始めようとした途端、背後から殺気を感じ取った。
咄嗟に振り返れば。
「あ……また、」
怪しく尖る、金の眼。
そしてすぐ、暗闇に紛れてしまう。
戦ってる下っ端たちの隙間を器用に縫いながら、何かが迫ってきた。
あれは……ナイフだ。
“あの時”の一場面が、反射的にめぐる。
『萌奈!』
『あ、お、オリ……ご、ごめんね、足引っ張っちゃって。すぐ立ち上がるから……っ』
手と手が離れて、傷ついた。
左半分の髪の毛と、頬と足と。
それから、愛を。



