絶対領域




登場した時と同様に歌って……いや、ダメだ。最初ほどの迫力と注目はもたらせない。



言葉が無力なら。

それなら、もう。


実力行使するしかない。



本当はしたくなかったけど、こうなってしまった以上仕方ない。


この決闘が悪化するより断然マシだ。


天使としての存在意義を出し惜しみしてる暇はない。



今ならまだ、皆の中に迷いがある。

こちらに傾いてる心に、この拳で伝えてみせる。



私“たち”が本当に守るべきものが何かを。




得意になったはずのコーヒーみたいな苦味を押し潰しながら、きゅっと手を握り締める。


オリはいつもこんなに苦しくなって、守ってくれていたの?



気持ちを落ち着かせて、リセット。


うん、平気。

強く在れる、きっと。



肩の力を落とし、颯爽と地を蹴った。



「なっ、お、お前いつの間に……!」



私に一番に反抗してきた双雷の男子に詰め寄り、右手にある鉄パイプを奪い捨てる。


本能的に怯えてる彼に、不敵な笑みをこぼした。



「あなたが言ったんでしょ?証拠を見せろ、と」



だから戦って、止めるよ。

天使として。


でき得る限り、傷つけないように。



「証拠って……っ!?」



今の今まで目の前にいた私が急に視界から消えて、驚きのあまり反応が遅れる。


瞬きも、油断も厳禁。

1秒の隙が命取りになる。