天使と悪魔のオルゴールを売っている、雑貨屋さん付近に戻ってきた。
雑貨屋さんの前では、あず兄がラッピングされた小さな箱を片手に、慌てた様子でキョロキョロしていた。
私を探しているんだ。
「あっ」
あず兄が、視界に私を捉えた。
険しい顔つきで、ズンズン近づいてくる。
うわ、あれ絶対怒ってる。
……そりゃ、勝手にいなくなったんだし、怒るよね。
こうなるってわかってて、行動した。
「あず兄、ごめんなさ」
最後の「い」は、あず兄の胸板に阻まれた。
ん?
えっ、……あ。
ぎゅっと力強く抱きしめられてると頭が理解したのは、10秒ほど経ってからだった。
「心配かけんなよ」
くぐもった声色に、胸が締め付けられる。
私の肩に乗せられた額は、少し汗ばんでいた。
「……うん、ごめんね」
ぎこちなくあず兄の背中に手を添える。
さっき『大丈夫。どこにも行かないよ』って安心させたばかりなのに、自分勝手でごめん。
あず兄の片手にある箱の中から、古びた音楽がギシギシ聴こえてきた。
天使と悪魔が、泣いてるようだった。



