『この街には、天使と悪魔がいる』
あの噂は、もしかしたら。
こうなることを予言していたのだろうか。
だから、天使と悪魔をふたりでひとつの盾のように、言い広められたのかもしれない。
……本当にそうだったら、すごいな。
キィ、と甲高い音を響かせる。
開いた扉から一歩幹部室を出て、振り返った。
気持ちよさそうな寝顔に、なんだか安心した。
あとでまた怒られちゃうのにね。
独りで抱え込むなとか、自分のことばっかり犠牲にするなとか、少しは頼れとか。
でもね、私、なんとかしたいの。
大切な人――オリを、守りたいの。
下っ端たちの無意義な争いに、大好きな皆を立たせて、混乱させたくない。
紅組の恐ろしさは、“あの時”に身をもって知った。
皆にまで背負わせたくない。
それに、皆まで争いに巻き込んだら、どうしてもお互いに各々のグループを傷つけ、傷ついてしまう。
そしたら今度こそ、双雷と神亀の関係は修復できなくなる。
だから、私は独りで行く。
皆の、オリの、私の居場所を守りに。
私の独りよがりになっちゃうかもしれない。
それでも、いいよ。
前みたいに、怒ってよ。
叱ってよ。
抱きしめてよ。
何度でも、戻ってくるよ。
それまでどうか、待っていて。
「行ってきます」



