絶対領域




「……もし、」


バンちゃんは静かにカップを持った。



「予想外の出来事が起こっても……何があっても、俺は、俺たちは、萌奈ちゃんの味方だからね」



危うく泣きそうになった。



ゆるゆるな涙腺をぴんと張り直してる表情はきっと、どこから見ても不細工で。


バンちゃんの笑顔を本物にさせる。



柔らかくほぐした唇に、カップのふちをつけた。

爽やかな香りが、鼻の奥にツンとくる。



半分飲んだくらいから、茶色い瞳が隠れ出した。


力の抜けた手でなんとかカップを置くと、前屈みになる。



「……あ、そう、だ……伝え、忘れて……た……」



寝言みたいに呟かれる。

伝え忘れ?何?



「裏……切り、者の目星、が……つい……」



睡眠薬に焼かれた喉では、最後まで続けられない。



小さすぎてほとんど聞き取れなかったけど、「裏切り者」のワードだけは拾えた。


重要なそのあとはさっぱり。



違和感を少しでも減らすためにあえて自分も眠ったバンちゃんを、また起こすなんて野暮はしたくない。


裏切り者について聞き直すのは、対立を止めてからでも遅くないはず。



今は、目先の問題に専念しないと。