3つのカップに紅茶を淹れる。
柑橘系の香りを孕ませながら、薄い湯気が立った。
「はい。これ飲んで休んで?」
先ほどより深く座ってるあず兄とせーちゃんは、お礼を告げてから、嬉しそうにカップに口づけた。
ゆらり、水面が揺れる。
「どう?」
「美味い!」
「萌奈が淹れてくれたんだ。まずいわけがねぇ」
うーん。2人なら、たとえまずくても美味しいって言いそうで、素直に喜べないんだよねぇ。
棒読みの「アリガトウ」に気づかずに、2人はガブガブ紅茶を飲んだ。
秒で飲み干し、カップをテーブルに置こうとした寸前。
カップの持ち手から指がすり抜けた。
「……ん……あ、れ……?」
「なんか急に眠く、な……て……」
2人の瞼が同時に、重たく下がっていく。
「疲れたんじゃない?今だけゆっくり寝てなよ」
ひどく優しげな声音を降らせる。
テーブルの上に、カップの底に残っていた紅茶の雫が数滴こぼれた。
そして、否応なく瞼は閉じ切った。
2つのカップが仲良く転がってる、その横に1つ。
中身の満ちたカップが佇んでいた。
「睡眠薬、入れたでしょ」
バンちゃんのだ。
「……わかっちゃった?」
「もちろん。だから今は飲まなかった」
バンちゃんはほんと鋭いなぁ。



