振り向く勇気のない私には、“あなた”が私の蹴りを止めて少し赤くなった手を気にしていることなんて、知る由もない。
『知り合いでもなんでもない』
何度も、何度も。
脳内で再生される。
その度に、傷ついて、苦しんでる。
「……嘘ばっかり」
こんなことボヤいても、意味ないのにね。
私の心は、今でも、“あの時”のままだって。
“あなた”は知らないんでしょ?
私は後ろを向くことなく、路地の先へ行く。
学ランの男の子が背中越しに、何か言っている。
けれど、返答などせずに、黙ってこの場をあとにした。
足も手も震えてる。
歩幅がいつもより小さいのは、気のせいなんかじゃない。
「バカみたい」
私も、“あなた”も。



