絶対領域




頭を抱えていると、しん兄も同じ仕草をしていて、なんだかおかしくなった。


ゆーちゃんなんか既に爆笑してるし。



八つ当たりしてるせーちゃんと、若干たじたじなあず兄。



騒がしくて、くだらないけれど、楽しい。

こういう時間、いいな。


さっきまでの凛々しい冷静さとか、空回りする混乱とかより、今のほうが素が出ていて好きだ。



傷とは、無縁そうで。




後ろの簡易キッチンから、香ばしい匂いが漂う。


こちらの騒々しさが聞こえてないんじゃないかってくらい、バンちゃんは鼻歌混じりにフライパンを振るっている。




他愛ない時間が特別なひと時だと、信じたくないな。

当たり前にしたいのにな。


こっちの世界じゃ、うまくいかない。



……だったら、喧嘩も傷も受け入れて、守らせてよ。


私を蚊帳の外にしないで。



皆して私を優しく扱うから……だから、傷を負う度に痛むんだ。



こんなこと思う私は、最低だね。

本当は、“天使”と呼ばれるような人間じゃない。



私、全然真っ白じゃないよ。


とうに真っ黒になっちゃってるんだよ。



私のほうが、“悪魔”という名前がふさわしいのかもしれない。