「……違ぇよ」

「え?」


誘導したのは、萌奈じゃない。



「俺が連れてきたのは、神亀の奴らだ」



俺と、萌奈。

脱走者と、天使。


そうではなくて。



双雷と、神亀なら。

新しい出会いならば。


手放したはずの宝物をそばに置き直すくらい、許してくれると思ってしまった。



そばにだっていられるし、盾と矛が多くなって守りやすくなる。


……いや本音は、再会を喜び、今度こそはと少し望んだんだ。



本当はどんな形であれ、関わってはいけない。

だから他人の振りをしたのに。


自分の想いに、これ以上嘘をつきたくなかった。



一度拒んだ運命を、もう一回だけ信じてみたかった。


いつの日か、手を握れるように。




「神亀を利用したのか?」


「……そういう言い方やめろ」


「ふむ、自分勝手であるな」


「うっせぇ」


「まあ、知っていたがな」


「はあ?」




知ってたなら聞くなよ。なんで聞いたんだよ。


こいつのことは、いつまで経ってもよくわからねぇ。



「理解はしていたが、納得はしていなかった」



納得できなくて当然だ。

俺と仁池じゃ、考え方も感じ方も価値観も、守り方だって違うんだから。



「ユーは己に甘くなり、我ら双雷と神亀を出会わせた。守りたい者を近くで守る一心ゆえに。それが結果吉と出るか凶と出るか……下っ端らの対決が鍵を握っているというわけだな」



いちいち説明するな。ちょっとポエミーだし。やめろよ、恥ずかしい。



ため息をつきながら、立ち上がった。


次いで仁池も腰を上げ、軽快にステップを踏んでいく。



「その対決の日程が掴み次第、俺たちも動くぞ」


「オーケイ、了解した」



藍色の空にうっすらと茜色がぼやけ始める。


もうすぐ朝が近い。




帰ったら、久しぶりにコーヒーでも飲むか。


あの愛しい苦味で、欲まみれの愛情を溶かしてくれたらいいのにな。