『もし気づいちゃっても、知らない振りをしてね』


ふと、先ほどの萌奈のセリフが、鼓膜を震わせた。



……気づく?何に?

まさか。


萌奈も紅組のことを知って……?



違う、よな?


単なる杞憂だよな?


そうだ、きっとそうだ。

だって“あの時”の最後に、俺から手を放したんだ。


萌奈が無茶さえしなければ、傷つくことはないはず。




でも、萌奈はもう一度、裏の世界に片足を突っ込んでしまった。


またしても、俺がきっかけで。




「最悪巻き込まれるのは、下っ端だけに済まされぬぞ。それこそ、ユーの守りたい者も。良いのか?」


「いいわけねぇだろ」



半分流し気味だった問いかけに、間髪入れずに言い放つ。


ばっさり切り捨てられないモヤモヤに、苛まれていた。



よくねぇから、こうして情報共有をして、考えてんじゃねぇか。



萌奈のことになると、途端に視野が狭まって、平静としていられなくなる。


“あの時”も、再会も、文化祭前夜も、文化祭当日も……さっきだって。

まるで俺の世界の中心が、萌奈であるみたいに。




「ユーは、間違えたのではないか?」


「……は?」



間違えたって、何をだよ。



つい殺気立ってしまった俺に、ひとかけらも恐れはしない。


凛としたまま、真っ直ぐ見据えていた。



「サマーバケーション、夏休みが明けた頃に、ユーが萌奈氏らをたまり場に招いたであろう?」



招いた、か。

そうだな。


尾行されているのには、早々に勘づいていた。


撒こうと思えば、易々と撒けた。



そうしなかったのは……。



「なぜユーは、わざわざ守りたい者を危うい場に再来させたのだ」



なぜ、と聞いてるくせに、口調は咎めてる。



守りたいなら、仁池のようにこちら側に関わらせないのが一番安全だ。


そんなこと“あの時”から、苦しいくらいわかってるさ。



だけど。