気づく?知らないフリ?
何を言っているかわからないのに、不思議ともどかしくなる。
もしかして、俺は、また。
知らぬ間に、萌奈に守られているのだろうか。
「……っ、も」
「あっ、そろそろ帰らないと!」
萌奈。
そう呼ぼうとしたら、萌奈の手がパッと離された。
冷ややかな風が、手の表面に残る温度を攫【サラ】っていく。
「またね、オリ」
萌奈は髪をなびかせながら、くるりと180度回る。
“あの時”の最後は左右非対称で不格好だった髪型は、今では随分長く伸びた。
胸元まである髪は、緩やかなウェーブを描いていて、ふわふわ揺れる。
「おやすみ」
一瞬、こちらを向いてそう囁くと、萌奈は急ぎ足でこの場をあとにした。
別れたあの日とは、真逆だな。
俺はベンチに座って、温かさを失った自分の手を眺める。
ここには俺と萌奈の2人だけだったのに、握り返せなかった。
“あの時”のように、なれなかった。
伝えられない「好き」ばかりが募って、息苦しい。
……早く自由になりてぇな。
「おやおや、こんな夜更けに俯いてどうしたのだ?まるで不審者のようであるぞ」
萌奈がいなくなって、10分。
ようやく待ち人がやって来た。
「……遅ぇぞ、仁池」
「すまぬ。稜が寝てくれず、来るに来れなかったのだ」
仁池は反省してる素振りを微塵も見せずに、俺の隣に腰掛けた。



