絶対領域




表向きは、白薔薇学園の高校2年生として。


裏では、追手を全く見ることがなくなっていた違和感を晴らすため、紅組の動向を探っていた。



しかし、あの紅組相手にさすがに単独行動では無理があるから、知名度より実力を考慮して双雷という暴走族に入団した。


初めは双雷内でも、白薔薇学園と同様に偽名を使用しようかとも思ったのだが……できなかった。



おじさんそっくりな奴がいたから。



そいつ……仁池のおじさんの息子は、あからさまに俺を憎み、恨んでいた。


そんな状況下で冷静でいられるはずもなく、うっかり本名を名乗っていた。




1年振りのこの街には、すっかりあの噂が定着していた。


――この街には、天使と悪魔が棲んでいる。



萌奈は今でも天使として、誰かを助けてやっているのだろうか。




追手対策として髪色をツートンカラーに染めた他に、身長が高くなり、顔立ちが大人びた。


外見の変わった俺とすれ違っても、たぶん萌奈は気づかないだろう。



悲しいけれど、それでいいんだ。





日本に帰ってきて、1年が過ぎた。


無意識のうちに萌奈を捜している自分がいたが、たったの一度も見つけることはなかった。



よく通る繁華街にある、女子が好きそうなおしゃれな雑貨屋のショーウインドー。


そこに飾られた、天使と悪魔が踊っているオルゴールを目にする度に、「萌奈が持ってそうだな」とか「萌奈は元気だろうか」とか未練がましく想ってしまう。



後悔なんかしていないのに。

あの時手放す選択をして、今もなお萌奈を守れているのか、時々不安になって自己嫌悪に陥る。





そんなある日。


夏休み明けの、賑やかな繁華街の路地で。



『現実、だよね?』


『……っ』



俺と萌奈は、再会してしまった。




◆ ◆ ◆