拾ったナイフは、あと1つ。
尖った目つきで紅組の連中を捉え、威嚇するように思い切り強く飛ばした。
ナイフは幹部2人の耳の横すれすれを通過し、入れ墨の男の股下をくぐった。
連中が慄【オオノ】いてる間に、膝をついた萌奈に駆け寄る。
『萌奈!』
『あ、お、オリ……ご、ごめんね、足引っ張っちゃって。すぐ立ち上がるから……っ』
なに、言ってんだよ。
謝んなくていいのに、どうしてそう、無理してようとするんだよ。
俺を頼ろうとせずに萌奈は起き上がろうとする。
『あ、あれ?おかしいな』
だが、腰が抜けたのか、一向に足に力が入らない。
内心焦っているだろうに、血の垂れた顔面には下手くそな笑顔が貼り付けられている。
『お、オリ、待ってね。今すぐに……』
『いい』
『え?』
『立ち上がんなくて、いい』
『な、なんで?逃げるのやめるの?』
作り笑顔を取っ払って、不安そうにまごつく。
ゆっくり頭を振れば、萌奈はホッと安堵した。
『戦わないし、捕まるつもりもない』
『じゃあどうして……?』
『俺が萌奈を運ぶ』
『へ?』
キョトンとする萌奈を、傷に障らないように慎重に持ち上げた。
『お、お姫様抱っこ!?』
『掴まってろよ』
『え、ちょ、』
異論反論は受け付けない。
萌奈に無理させたくないんだ。
これくらいさせてくれ。



