絶対領域




じわじわと熱っぽいものが、傷口を中心に沸き上がってくる。


痛ぇ……けど。

こんくらいの傷なら、舐めときゃ治る。




おじさんの時のように犠牲にしたくない。


萌奈に、紅の色を見せたくない。



決めたんだ。

今度は俺が、守ってみせるって。





『ぅおりゃあっ!!』



俺が萌奈を庇うより先に、幹部の一人が腕を振り上げてナイフを飛ばした。


殺気を纏ったナイフは、だんだん迫力を増していく。



刹那、どこからか春風が過った。



俺の頭を射止めようとしていたナイフの先端が、わずかにずれて。


目標を、変えた。





『……っ、え』



とうとう限界を迎えた萌奈の左足が、カクンッと膝から折れた。



1ミリの隙間もなく重ねていた手が、力なく解かれる。


温もりの褪せた手のひらには、もう、何もない。



自然と、俺の足も静止していた。




『も、な……っ』




視界に散る、ミルクティー色の髪。


足元に落下したナイフのそばには、クセのある毛束が落ちていた。




なんで。

なんでなんだよ。



倒れた萌奈に、視線を逸らせない。




線状の傷が刻まれた、左の頬。


左半分だけ短くなった、天パの髪の毛。



不格好な髪型をそよがせる、陽気な春風が鬱陶しかった。