絶対領域




思わず足を止めようとしたら、グイッと手を引っ張られた。



俺を連れて走り続ける萌奈の華奢な肩は、らしくなく上下に乱れていた。


強引に奮い立たせた、左足の動きが鈍い。



本当は苦痛を我慢してるんだろ?




スカートの下から、どろり、と。

左足の表面を、一滴の紅色が滴った。



血だ。



ドクンッ。

心臓が激しく震えて、軋んだ。





逃亡中、俺も萌奈も数えきれないほどの傷を負った。


それでも、こんなに動揺することはなかった。



なぜ、俺は今、こんなに……。




瞬間、フラッシュバックしたのは、脱走した日のワンシーン。

おじさんの首が切られ、血しぶきが舞う。



二度とあんな悲劇を繰り返したくない。



もう、誰かを失いたく、な、い……あぁ、そうか。


そうだったんだ。



いつの間にか、誰かが傷つくのが“普通”になってしまっていたんだ。




当たり前なんかじゃない。


慣れてしまってはいけなかった、のに。





『おらおら!まだ終わんねぇぞ!』


『くたばれ!』



休む間もなく、次々にナイフが飛んでくる。



凄まじい勢いで迫り来る攻撃を、完全にかわすのは不可能だった。


致命傷は避けたものの、片腕とふくらはぎを負傷した。