絶対領域




まさか萌奈に異名がつくとはな。


萌奈が活躍する時は、大抵俺はこうやって隠れていることが多いから、俺のことは噂にならなかったのだろう。




“天使”。

その名前を聞いた瞬間、あぁぴったりだ、と感動した。


俺みたいな形骸【ケイガイ】なんかを、温かく愛してくれる。守ってくれる。



愛しい、愛しい、俺だけの天使。




『巷ではそう呼んでるらしいね。……それ、誰が付けたの?やめてくれない?』



嫌そうに肯定すると、不良どもは揃って息を呑んだ。



『天使に敵うわけねぇ』

『天使がいるっつーことは、悪魔もいるんじゃねぇか!?』

『やべぇよっ!』



急に焦り出し、不良どもは一目散に去っていった。


何だったんだ、この茶番は……。

あの噂ってそんなに恐怖の的なのか?




『まあいい。俺たちも逃げねぇとな』



俺は野次馬の間を縫って、萌奈に近寄った。



『あ、あの、ありが……』


『行くぞ!』

『え!?』



萌奈の手を取り、即座に走る。


少年が何か言ってた気もするが、足を止めてる余地はない。



『紅組が近くにいる』



そう伝えると、ポカンとした萌奈の顔が凛々しくなった。