絶対領域




あれでわざとじゃねぇんだから、ほんと質が悪ぃよな。


あーあー、不良どもが腹を立てて……。



『……っ』

あ、いる。


不意に、殺気の残り香を感じ取った。



近くに紅組の奴が、いる。もしくは、いた。


この騒動が収まったら、急いでここから離れねぇと。




『んだと!?』

『この女、調子乗りやがって……!』

『女のくせに出しゃばってんじゃねぇよ!!』



見事に無自覚な挑発に引っ掛かった。



萌奈は不良どもの攻撃を全てかわし、ジャンプする。


空中で回転しながら、艶【アデ】やかに不良どもの顔横を連続で蹴った。



『わ、わあっ……す、すごい……!』



小柄な少年は漆黒の瞳をキラキラ輝かせて、萌奈の背中に見惚れていた。



華麗な着地と共に、ふわっとやわい髪が浮かぶ。

出会った時は顎先までだったのに、今では肩につくくらい伸びた。




腰を抜かした不良の一人が、蹴られた顔横を抑えて、顎をガクガク震わせる。



『ま、まさか……お前が、天使、なのか……!?』



当てずっぽうだとしても、いい勘をしてる。


誰が言い始めたのか、ある噂が不良を中心に定着しかけていた。



――この街には、天使と悪魔が棲んでいる。



悪魔についてはよく知らないが、天使は、そう。

萌奈のことだ。