そのせいで、いろんな箇所でいろんな噂が流れ出した。
「正義のヒーロー現る」とか「セーラー服の魔女が踊る」とか、曖昧で珍妙な内容だらけ。
この街でも、ある噂が広まりつつある。
俺としてはあんまり目立ちたくないんだけど、萌奈がしたいなら仕方ない。付き合ってやる。
『オリはどこかに隠れてて』
『一人で平気か?』
『うん!』
『無理すんなよ』
萌奈はガッツポーズをして、カツアゲ現場へ駆けていった。
心配はしていない。
やばくなったら俺が助けに入ってやれるし、何より今の萌奈は紅組の下っ端と同等かそれ以上の力を持っている。
萌奈より年下っぽい、あんな小柄な少年を好んで狙ってるような雑魚じゃ、相手にすらならないだろう。
それほど萌奈は、強くなりすぎた。
『もう大丈夫』
『え?だ、誰……?』
トン、と軽やかに降り立つように。
七三の髪型にメガネをかけた、もっさりした少年の前に、萌奈が躍り出た。
『なんだ、この女』
『邪魔しないでくれる?』
『それともお前が金くれんの?』
ニコッと一笑する萌奈に、下品な不良どもは不覚にもドキッとした。
『子どもにせびってる暇があったら、汗水たらして働けば?いい歳したあんたらが、こんなところで他人にねだってるところなんて、誰も見たくないの。目が腐っちゃう』
天然毒舌が炸裂した様子を野次馬の後方で、気配を消しながら眺めていた。



