絶対領域







安らぎのひと時は、ほんの一瞬。




日中は、見知らぬ街を彷徨い、気配をくらませて、逃げた。


とにかく逃げた。

不自然に怪しくならないよう、できる限り平然として、注意しながら。



夜中は、萌奈に戦い方を実戦形式で教え、強さを共有した。


繊細で身軽な女だからこそ活きる方法を、手探りで身につけていった。


萌奈は呑み込みが早かった。

すぐに上達し、力を伸ばした。




萌奈は日に日に強くなり、常軌を逸する才能へと変わった。


それを明白な事実として把握したのは、一緒にいるようになって半年を過ぎた頃だった。




ある秋の夕闇。



俺たちは、出会った街に戻ってきていた。

たまに帰ってきて、またすぐどこかに行ってしまう。



その日もいつも通り、寝床を探しつつ、路地裏を歩いていると。



『……あ』


『萌奈?どうかしたか?』


『カツアゲしてる連中がいる』



繁華街の大通りの端で、不良どもが一人の少年を囲んでいた。


通行人は案じていたり、冷やかしたりしていたが、誰一人として助けに入ろうとはしなかった。



表の世界では、きっと“普通”なんだろう。

自分が第一で、巻き込まれたくない。



ただ、萌奈は。

なんていうか、正義感があるというかおせっかいというか……。


弱い者いじめを見過ごせない人間だ。



今までも、そういう現場を目撃したら、ところかまわず助太刀していた。