絶対領域





ポンポンと頭を撫でたら、眉間のシワが取れていく。



『……あず兄みたいだなぁ』



柔らかくなる表情に意識が向いて、かすかに漏れた独白を拾うことはできなかった。



湯気が薄まらないうちに、萌奈も試しにコーヒーを飲んでみる。


口の中に味が広がっていくと、せっかく和らいだ表情が渋くしかめられた。



『に、苦ぁい……!』


『子どもだな』


『オリだって子どもじゃん!』



萌奈の膨れっ面を笑えば、さらに頬は膨れていく。



違う、違う。

今笑ったのはおかしいからじゃなくて。


幸せだからだよ。




こんな平和な時間が、永遠に巡ればいいのにな。


2人でひっそりとのどかな日々を送れたら、どれほど幸福か。



俺はいつになったら、本物の自由を手に入れられるのだろうか。




俺のいるこの世界が、普通ではないと気がついた時。

同時に、理不尽で残酷なのだと悟った。



傷の数と幸せへの距離は、比例しない。



ならせめて、苦味なんてくれるなよ。


いっそ甘さを覚えなければ、楽だった。




だって、ほら。

この運命が間違いだったとしても。


俺は守るしかないじゃないか。