『過去形ってことは……』
『今は、違う。無理やりやめてきたんだ』
『ずっと紅組をやめたかったの?』
静かに首を横に振った。
違う。
当たり前の日々を疑ったことなんて、なかった。
……あの日までは。
『ずっとじゃ、ない』
『じゃあいつから……?』
『きっかけは、数か月前』
あの日は、雷鳴が轟く、豪雨だった。
『両親が殺された、とおじさんから聞いたんだ』
顔もあやふやな、実の親。
会った回数は数えられる程度。
だけどなぜか異様に悲しくて、涙が止まらなかった。
『依頼に失敗したらしい。こっちの世界ではざらにあるし、紅組内でもたまにあったのに、その時どうしようもなく苦しくなった』
両親を愛してたわけじゃない。
特別感謝してるわけでもない。
それなのに、心にぽっかり穴が空いたみたいな喪失感に襲われた。
あぁ、この世界は普通じゃないんだな。
その時ふと気がついた。
『泣いてたせいか、その時ポロッと口が滑って、おじさんに言っちまったんだ。ここから逃げたい、って』
簡単に逃げられないって痛いくらい知っていた。
叶わない願いだろうと諦めかけていた。
いつか俺も、あっけなく殺されてしまう気がしていた。



