穏やかな微笑みに、心臓がトクンと高鳴る。
萌奈の温度が浸透していく。
心地よい温かさに、泣きたくなる。
決して交わることのなかった表と裏の世界で、俺たちは出会ってしまった。
出会うべきじゃなかった。
それでも俺は、穢れを知らないこの手を、放してやれない。
『……紅組って、知ってるか?』
もう、なかったことになんてできない。
『名前くらいなら……』
『裏の世界を牛耳る、最強の極道。その紅組の下っ端だった』
ほんの少し、萌奈の目が丸くなった。
驚くのも無理はない。
紅組は、それほど恐ろしい組織なのだから。
『産まれた時からずっと、紅組の一員として生きてきた』
両親も紅組に属していたが、あまりよくわからない。
顔すらまともに思い出せない。
俺を育ててくれたのは、血の繋がった両親ではなく、仁池のおじさんだった。
世話係と教育係を任じられたらしい。
組長や幹部、仁池のおじさん以外の組員は、両親も含め、ほとんど顔も名前も知らない他人だった。
別段違和感を覚えることはなかった。
それが俺の“普通”だったんだ。



