『だって、しょうがないじゃん。オリといたいって想っちゃったんだから』
『俺だって……』
『え?』
『……いや、なんでもねぇ』
『何?教えてよ!俺だって、何!?』
萌奈はニヤニヤしながら、続きを急かす。
こいつわかってるくせに……っ。
栗色の髪をガシガシかいて、渋々口を開いた。
『……俺だって、そうだ』
出会った日のことを、今でも鮮明に憶えている。
目が合った時の甘美な衝撃を、一日たりとも忘れられなかった。
『運命なんか信じてねぇけど、運命みてぇだって思っちまった』
目が離せなかった。
初めて会ったのに、そんな気がしなくて。
拒まなきゃなんなかったのに、できなかった。
名前も知らない女に、たった一瞬で惹かれてしまったんだ。
……だからだ。
『知らねぇほうがいい』と、こっち側に来てほしくなかったのも。
『……俺と逃げる覚悟、あるか?』と、みっともなくすがったのも。
矛盾に葛藤したのも。
全部、全部、この激情のせいだ。
『わ、私もだよ!』
『何が』
『私もね、運命だって思ったの。オリが、私の運命の人だって』
床に落ちた手の甲に、綺麗な手が重なった。
『今も、思ってるよ』



