そして、私とオリは手を繋いで一緒に逃げた。
何から逃げているのか、聞かなかった。
まだ聞けなかった。
これからちょっとずつ知っていきたい。
私のことも知ってほしい。
学校帰りのセーラー服を着て、カバンを肩にかけたまま、自分の意思で“普通”を飛び越えた。
月が現れる前に、走っていく。
行き先なんかない。
目的地もない。
生死のかかった、逃避行。
繁華街にネオンが灯り始めた頃。
街はずれの廃ビルの中に逃げ込んだ。
隅っこで隙間なくくっついて丸くなる。
手を握り締めたままだった。
『オリ』
『なんだよ』
『ふふっ、オ~リ』
『用もないのに呼ぶな』
『えー、いいじゃん。ねー、オリ』
『……萌奈』
『もっと呼んで?』
『萌奈』
『えへへ』
だらしなく笑う私の隣で、オリも淡く笑っていた。
春先の夜でも、ちっとも寒くない。
カバンの中から携帯を取り出して、家族宛にメールを送信した。『しばらく帰れません。でも、心配しないで。捜さないで。私は独りじゃないから』と。
返信の代わりに着信が来たけれど、電話には出なかった。
携帯の電源を落として、『ごめん』と呟く。
それでも私は、オリを選んでしまうよ。
眠る前にキスをして、お互いに寄りかかりながら目を閉じる。
制服がシワになるとか、全然気にならなかった。
寝ていても、指と指の間からするりとほどけてしまわないようにきつく、固く、何度も手を握り直していた。



