絶対領域





確認が多い!

しつこいよ。


いいって言ってるじゃん。


どうしたら信じてくれるの?



『ていうか、お前お前って、私の名前教えたよね?私は、も……』



な。

最後の一音は、喉奥に飲み込んだ。



突然、抱きしめられたせいで。



『え、え……?オリ?』


『……っ』



腰に回された腕が、ぎゅぅっとしがみつくように強められる。


オリの顔が胸元にうずめられて、表情を窺えない。



『萌奈』



……ずるい。


そんな、すがるみたいな、甘酸っぱい響き。



鼓動のうるささが、バレちゃいそう。




『いいのか?』


再び尋ねられた。



『うん、いいよ』


私も同じ言葉を返す。




『オリと、逃げたい』


『逃げよう、2人で』




小説や漫画によく出てくるフレーズを思い出した。



――あなた以外、何もいらない。

――世界を敵に回しても、あなたといたい。



読んだ時はときめきはしたけど、現実味がなくて。


ちょっと笑ってた。

本気でそんなことを思えるのか、って。



何もいらないなら、家族は?幼なじみは?友達は?


世界を敵に回す状況って何?味方が一人しかいないなんて悲しくない?生きていけなくない?



そう、疑っていた。


だけど、今ならわかる。

わかってしまう。



小説や漫画の主人公たちも、きっと今の私みたいに夢中だったんだろう。


偽物であろうとなかろうと「運命」に焦がれて、溺れていた。


他には何も見えないくらいに。