「そんなことより、あのオルゴール、欲しいのか?」
「えっ?」
わざと、だ。
わざと話題を転換してくれたんだ。
私のために、自分のために。
「う、ううん。違う違う!」
「ふーん」
「ほ、ほんとに違うからね!?」
「……用ができた。ちょっとそこで待ってろ」
そう言い残して、あず兄は迷うことなくこの雑貨屋さんに入っていった。
私の話、聞いてた?
まったくもう。
あず兄ってば、どこまで私に甘くなるんだろう。
「……本当に欲しいものは、ここにはないよ」
多くの人が行き交う、この街で。
“あなた”だけが、私の独白をすくってくれたなら。
私はそれで、充分なのに。



