絶対領域





私の気持ち、伝わった?



力の入らない瞼を限界まで見開かせていた視界が、だんだんとしぼんでいく。


朗らかに細められた瞳で、真っ直ぐ見つめた。



彼の白い手のひらが、そっと私の右頬を包んだ。




心臓がこれまでにないくらい、ぎゅっとなって苦しいのに。


なんでかな。

不思議と、辛くない。




どちらともなく顔を近づけていった。


お互いに惹かれ合い、引き寄せられる。



美しく咲き誇る桜の木の下、夕闇の迫る空を背景に、重なるだけのキスをした。



初めての、キス。


変に緊張とかしなかった。

甘くも苦くもない。



例えようのない、真っ赤な感情ばかりが募っていった。



あぁ、これはまるで。

誓いのキスのよう。




体温が上がっていく。


一瞬遠ざかって、また、角度を変えて触れた。



『……緋織』


『え?』



熱い吐息混じりの二度目のキスの後。


彼は小さく破顔して、紡いだ。



『野々塚、緋織だ』



それがあなたの名前?

とても素敵な名前だなぁ。




『ひおり、ひおり……じゃあ「オリ」だね』


『は?』


『あだ名だよ、あだ名。嫌?』


『……勝手にしろ』




嫌……ではなさそう。

なら、オリって呼ぼう。