絶対領域





強気に微笑む私に、端整な顔がやるせなく歪む。


困惑の眼差しを、ぐらぐら泳がせていた。



『……バカじゃねぇの』


『バカじゃないよ。そもそも黙って殺されないし、全力で生きてみせる』


『なんだよそれ。意味わかんね』



どうして私、たった今会ったばかりの人に、命を懸けるようなセリフを言ってるんだろう。


私にもよくわからないや。



ただ、そばにいたいと、想ったの。




『……俺と逃げる覚悟、あるか?』



ハート型の花びらがひとつ、地面に落ちるまでの沈黙を経て。


頼りなげに、ポツリ、問いかけられた。



大人っぽいミステリアスな雰囲気があるなのに、今だけは不器用であどけない幼子に見える。




『覚悟はない、けど……』



もしかしたら、あなたは、出会ってはいけない人だったのかもしれない。


でも、出会ってしまった。

出会うべくして、出会えた。



――きっと、運命の人。



あなたもそう感じていたら、いいな。



『あなたとなら、どこまでも逃げていける』



やわく驚く男の子の額に、口づけをした。


触れたか触れてないか、ギリギリの距離。



唇を離すと、彼はもっと驚いていた。




覚悟が必要なら、少しずつ作っていく。

桜が散り終えるまでに。