絶対領域






『嫌な態度、取らないでよ。傷に障っても知らないよ?』


『……触んな』



言葉とは裏腹に、口調は弱々しい。


抵抗という抵抗もしてこない。



交わっていた視線が、やがて静かに落ちていった。




傷、痛そう。

どうしてこんなに傷だらけなんだろう。



優しく傷を撫でたら、うっすらと薄い唇が動いた。



『……あったけぇ』



指先が、震える。


双眼がほのかに潤んだ。




この人を、守りたい。

強く抱きしめてあげたい。



こんな泣きそうな想い、初めてだ。





『あなたは、誰?』



涙を堪えるのに精一杯で、想像以上に声が細くなってしまう。


彼は目を閉じたままなのに、睨んでいるようだった。



『知らねぇほうがいい』



あ。

今、線を引かれた。


ここから先の領域には立ち入って来るな、と突き放された。



『殺されるぞ、お前』



それは嘲りなのか、拒絶なのか。


それとも、優しさなのか。



……どれであっても、無駄だよ。


だって、もう。

出会っちゃったんだから。




『いいよ』



なんてことないように返事をすれば、今度は本当に睨まれた。


ギロリと射抜く鋭い眼差しには、戸惑いが含まれていた。



『殺されても、死なないから』


『は……?』


『しぶとく生きるから、いいよ』