絶対領域





転んだ……んじゃないよね?


口の端から血が垂れてるし、白いワイシャツにも至るところに血痕が滲んでいる。



え。

ま、まさか、死んで……?



恐怖心がぶわっとよみがえる。




『あのっ!』


『…………』


『だ、大丈夫ですか!?』


『…………チッ』




男の子の両肩を鷲掴んで、グラグラ揺らしたら、舌打ちが返ってきた。


今の舌打ちって、もしかしなくても男の子が?



『耳元ででかい声出すな。体揺らすな。せっかく逃げ切れたっつーのに』



は?

何こいつ。何様?


生きててよかったけど……けどっ!

こっちは心配したのに。



『でかいのは私の声じゃなくて、あんたの態度じゃないの?』


『あ?』



ドスのきいた低音を這わせながら、意地悪く笑う私をようやく捉えた。


といっても、片方の瞼は開ききらずに、半分隠している。




長めの前髪越しに、澄んだ藍色の瞳と重なった。



その瞬間。

脳裏に「運命」の2文字が過った。




時間が止まった気さえした。


トクトクトク、と急激に脈が速くなる。



彼に触れたい。

ごく自然にそう思った自分自身に、困った。



またしても勝手に、手は伸びて。


いくつもの傷を刻んだ頬に、たどたどしく添えた。