わずかな静寂を匂わせて、白薔薇学園の制服を着たままの体がこちらに向けられた。
ゆらり、と裾から視線を上げていく。
月明かりに濡れたまつ毛。
満月を映さない藍色の眼が、私を捕まえた。
「目、赤い」
家に出る前、“あの時”を思い返して泣いちゃったから……。
気恥ずかしくなって俯こうとしたが、温度のない手のひらで両頬を持ち上げられた。
強制的に見つめ合わされる。
オリの意地悪。
ちっとも嫌じゃないのが、もっとムカつく。
「泣いたのか?」
「……な、泣いてない、よ」
「嘘つけ」
「あくびしただけだよ」
頑なに認めない私の目元を、丁寧に親指でなぞられた。
胸の奥をきゅぅと高鳴らせながら、大きな手のひらに頬をすり寄せる。
「オリは、泣いた?」
「泣いてねぇ」
いつから、泣いてない?
言葉を並べられても、声にはなってくれない。
「泣いてもいいよ」
「泣かねぇよ」
「じゃあ私が、オリの分まで泣くよ」
「お前はお前のためだけに泣けばいい」
バカなくらい優しいあなたを、苦しませたくない。
でもきっと、紅組が大切な居場所を奪おうと企んでると知ったら、“あの時”のように離れていくだろうから。
もう、あなたから手放すことも、傷つけることもさせない。
私が……天使が、守り抜く。
今度こそ。
脳裏を駆け回る、ショパンの「別れの曲」。
オルゴールが逆再生で歌っていた。



