“あの時”の始まりは、春。
薄紅色の桜が、綺麗に咲いていた。
回想しながら、公園の奥に踏み込んでいく。
そうそう、あの桜の木の下にあるベンチに、オリが座ってて……。
「え?」
思わず立ち止まる。
ジャリ、と砂で靴底が少し滑った。
「お、り……?」
夜風にそよぐ、丸裸の桜の木の前。
闇に溶け込むように佇んでいる。
あの背中は、オリのもの。
私が見間違えるはずがない。
「……っ、萌奈……」
ゆっくり振り向いたオリは、一瞬目を瞠った。
偶然か、必然か。
いたずらな巡り合わせか。
2人きりになるのは文化祭以来で、ちょっと緊張してしまう。
「こ、こんばんは」
「…………」
一度開かれた薄い唇は、ためらいがちに閉ざされた。
素っ気なく顔を背け、桜の木を仰ぐ。
私のための無視。
優しすぎるがゆえの傷。
でも、ねぇ、オリ。
「今ここには、2人しかいないよ……?」
オリに駆け寄って、きゅっと裾を握り締めた。
朝が訪れるまでは、ちゃちな魔法にでもかかったみたいに、仮面を外して?
素顔のまま、素直に居ようよ。
敵も味方もいない、ここでだけは。



