絶対領域





あのね、オリ。

私の“特別”は、今も昔も、あなただけだよ。




「例えば、緋織氏は皆を苗字で呼んでいるが、ユーのことだけ名前で呼ぶのだ」


「オウサマのことも、苗字なの?」


「ああ、『仁池』と実に他人行儀な呼び方だ」



不満そうなオウサマが可愛らしくて、ついクスクス笑ってしまった。




「ユーは緋織氏のことをどう呼んでいるのだ?やはりあだ名か?」


「うん。『オリ』って呼んでる」


「よいあだ名だな」


「でしょ?私も気に入ってるの」




オリ、萌奈、って。

“あの時”、何度も呼び合った。


何もなくても、呼んでいた。



たとえオルゴールのネジを巻き直しても、あの懐かしい時間は二度と戻ってこない。




舌の上に残る甘さが、もどかしい。


湯気の薄まったコーヒーを、ひと口飲んだ。



ほろ苦い。

もっと苦ければよかったのに。




「……ユーは、強いのか弱いのか、わからぬな」


「え……?」



唐突に呟きをこぼされた。


引き寄せられて、目がかち合う。



「ユーは、大切な者が傷つくのをやけに嫌悪している節がある」


「……っ」


「だが、ユー自身もまた、でき得る限り傷を負わぬようにする、強いポリシーも感じるのだ」