「はいはい、了解しました」
あとは任せてよ、総長。
ひらひらと手を振れば、あずきは歩き出す。
ふと、萌奈ちゃんが顔だけ振り向いた。
窓から差し込む、紅の色。
眩むことさえ煙たがる、憂いた横顔に、声はかけない。
そっと唇に人差し指を添えて、パチンとウインクを投げた。
不安がらなくていいんだ。
大丈夫。
これは、2人の秘密の作戦。
萌奈ちゃんはすぐに汲み取って、同じサインを返してくれた。
「またね、バンちゃん」
「じゃあな」
「バイバイ。萌奈ちゃん、お大事にね」
閉ざされた扉で、萌奈ちゃんとあずきの姿が見えなくなった。
……あの様子じゃ、今日はあずき、たまり場には来ないな。
なんてのんきに肩を竦めて、一人きりになった保健室で保健医の帰りを待つ。
矢浦萌奈さん、帰りましたよー。
って伝言しとかないとなんだけど、遅いな。職員室でまったりコーヒーでも飲んでそう。
窓際に肘を置いて、外の景色を眺めながら、退屈な時間を過ごす。
グラウンドでは後夜祭の準備が進められていて、まばらに生徒も集まり出していた。