「結果的には、紅組の依頼を受けてよかったよ。脱走者と共に行動する天使を、見つけられたからね」
「……ば、バンちゃんは、紅組に教えたの?居場所や、私のこと」
不安げに顔をしかめる萌奈ちゃんに、俺はできるだけ穏やかに微笑んだ。
「嘘は教えてないよ」
「……そ、」
「だけど、ちょっとずるをした」
そっか、とまた沈みかけた視線が、軽やかに弾む。
誰かに告げ口しないでくれよな。
紅組に殺されちゃう。
「天使のことは内緒にして、脱走者の位置情報は少し前の記録にしたんだ」
「なんで……」
「さっきも言っただろ?俺は天使に会いたかったんだ。なのに、本人が脱走者の協力者として紅組に捕まったら、元も子もないだろ?」
本当は、それだけじゃない。
純粋に嫌だったんだ。
天使を悲しませるのが。
でも、それは恥ずかしいから、一生秘密にしとく。
「……私のことを知ってるんだから、脱走者が誰かも、わかってるんだよね?」
「もちろん」
「そのこと、あず兄たちには……」
「安心して。話してないよ」
萌奈ちゃんはホッと胸を撫で下ろした。
話さないんじゃない。
話せないんだ。
一歩間違えれば、脱走者もろとも俺たち全員、紅組に消されてしまう。
そんな危険な橋を、当時のあずきに渡らせられなかった。
命がいくつあっても足りない。



