「君だよ、天使」
「……わ、たし?」
「そう、俺は、天使に会いたかったんだ」
――この街には、天使と悪魔が棲んでいる。
初めて流れた悪魔の噂が、ソレで。
その噂を聞いた時、「えっ、天使って何!?誰!?」とガチで驚愕した。
すっかり情報屋が板についてしまって、血が騒いだ。
天使ってどんな奴なんだろう。
何者なんだろう。
その時には既にそこそこ情報を持っていたけれど、天使のことはその噂で初めて知って。
興味が湧いた。
悪魔とひとくくりに噂された、天使という得体のしれない存在に。
「あずきにスカウトされる前から、実は天使を捜してたんだ。だけど、ひとつ厄介な依頼が入っちゃってね」
「厄介な依頼……?」
「紅組から、頼まれたんだよ。脱走者の居場所を突き止めろ、ってね」
萌奈ちゃんの手が、ぎゅぅ、と握り締められる。
爪が食い込むくらい、きつく、きつく。
「……く、紅、組……っ」
ほんのり赤みを帯びていた表情が、急激に真っ白に凍てついていった。
あずきが俺に声をかける前に片付いた、ある依頼。
あれこそ、紅組からの依頼だった。
紅組。
裏の世界を牛耳る、実力と権力を兼ね備えた極道。
そんなやばいところから頼まれたら、さすがの俺も断れるわけがない。



