あの頃から、あずきは割と有名だった。



神亀に入った期待の新人だから。

……ではなく。


不良の中でも、ひと際死んだ目をしていたから。


荒れに荒れ果てて、生気すら感じなかった。



いくら血を浴びようと、傷をえぐられようと、何かを探し求めて。


時折慎士が無理やり止めに入って、制御させない限り、いつまでも自身を犠牲にしていた。




心臓をくり抜かれた、死に損ないの獣【ケダモノ】。


そう陰で謳われるほど、あの時のあずきはひどかった。




その血生臭い獣と、悪魔が邂逅した。



当時は『この街には天使と悪魔がいる』という噂が広まり出したばかりだったし、今と比べれば悪魔に会いに来る奴はそれなりにいた。


今では神亀の副総長になっちゃったし、噂が一人歩きしてるし、難しいだろうけど。



今まで頼まれたことはあっても、仲間に引き入れようとする奴は一人もいなかった。


おそらく悪魔の力を認めているからこそ、どこかに独占されるよりも、一匹狼でいてくれたほうが都合がよかったのだろう。



暗黙の了解を破って、あずきは俺を誘った。




……まさか同じ中坊の奴にスカウトされるとは、想像もしていなかった。





「それでバンちゃんは、神亀に入ったの?」


「ううん、最初は断ったよ」


「え?なんで?」


「俺も、人探しの最中だったんだ」




誰だと思う?

問いかけてみれば、萌奈ちゃんは「うーん……」とうなって、首を大きく傾げた。


ははっ、わからないか。



見当もついていない栗色の瞳に、茜色が差した。