絶対領域






扉を開けてすぐ、ドンッと何かにぶつかった。


痛っ!

……何?こんなところに壁なんかあったっけ?



鼻を抑えながら、視線を上げていく。


甘酸っぱいベリーのような色に染まっている、後ろ毛を捉えた。



「……あ、オリ」



なんだ、オリの背中にぶつかっちゃったのか。

高身長な上にスラッとしてるから、壁かと思ったよ。



柔らかな髪をなびかせながら振り向いたオリと、目が合った。



……あぁ、綺麗だなぁ。



日差しに透けて、淡い海色が浮かぶ前髪の奥。


月の出を望む宵闇の瞳は、ほのかに瞠られてる。



いつ見ても、どうしようもなく惹かれてしまう。



いつもは早々に目を逸らされるのに、今はずっと合わせたまま。


だからだろうか。

全てを忘れて、深く溺れるのは。



形のいい唇に、小さな低音が這う。



「……も、」


「姉ちゃん!仕事終わった!?」



2人の世界から、ハッと我に返った。


はしゃぎながら近寄ってきたせーちゃんに、ぎこちなく「終わったよ」と答える。




……今、オリ、何か言いかけた?


萌奈、って。

私のこと、呼ぼうとした?



私の勘違いかもしれない。


それでも、勝手にそう思ってるくらい、いいよね?