絶対領域





ずっとクラスメイトと仲良くなりたかった。


高校生らしい青春を謳歌したかった。



その夢が、今叶ってる。

ほんの少しだけど、打ち解けられてる。


それが嬉しくて、嬉しくて。



大変な接客の仕事も、楽しくなっちゃうくらい。




「……あ、あの、それで、もしよかったらなんですけど……」


「何?」


「名前で呼んでもいい、ですか?」



ほら、またひとつ。

夢が叶った。




「もちろん!」


「ほ、本当ですか!?やったあ!」


「……私も、名前呼びして、いい?」


「はい!ぜひ!」


「ふふっ、タメ口でいいよ」




クラスで一人だけ、クラスメイト全員に苗字にさん付けされていた。


除け者にされてる感じがして、もっと気軽に呼んでほしかった。



だけど、まさか、名前呼びしてくれるなんて。


今日は私のハッピーデーだ。




「それじゃあ私、休憩がてら回って来るね」


「えっ!やう……じゃなくて、も、萌奈ちゃん、もしかしてその恰好のまま行くの!?」


「うん!」



最初は制服に着替えようと考えてたんだけど、やめた。



高校生になって初めてできた友達(のつもり。相手がそう思ってなかったとしても、私はそう思うことにする)が、丹精込めて作ってくれた衣装だもん。


着替えちゃったら、もったいない。



今日一日、この恰好で過ごしたい。




「童話喫茶の、いい宣伝になるでしょ?」



……なんて本心を明かすのは恥ずかしいから、言い訳を口にする。


私はハイテンションで、裏口のほうから教室をあとにした。