絶対領域





威圧的な雰囲気とは反対に、血を流す手の力はだんだんと抜けて、とうとうナイフが滑り落ちた。


けれど、痛みが表情に出ることはなかった。



しん兄はぎゅっと手を握り締めて、ナイフの刃の部分を足で踏みつぶす。




「……ん、」

イヤーカフとピアスを飾った耳が、かすかに動いた。




「何してくれてんだよ、てめぇ!うっぜぇんだよ!!」



自棄【ヤケ】になったのか、怒声をまき散らされる。


逆上したリーダーらしき男は、ポケットからスタンガンを取り出した。



負傷したばかりのしん兄を、気絶させる気だ。

そんなことさせない。


今度は私が食い止める!



私は立ち上がるため、あず兄を一旦横にさせようとして、目を見開いた。



「……え?」




明かりのない、暗がり。

不透明な雨にも侵せない。


そばで輝いていた唯一の黄金が、遠ざかっていく。




「消えろっ!!」


リーダーらしき男は勢いよく腕を振り上げる。



手を庇いながら避けようとするしん兄のほうへ、足音がクリアに鳴った。




しん兄の視界に入り込む、黄金。

キラリ、瞬いて散る、流れ星のように。




「消えるのは、お前のほうだ!」



横から飛びかかってきた、泥だらけの拳。


敵の顔を力強くぶん殴り、ふっ飛ばした。