リーダーらしき男がわかりやすく強がって、脅し文句を並べる。
それをいちいち聞いていられるほど、私は寛大じゃない。
あず兄がどうにかされてしまうより先に、助け出す!
思い切り地面を蹴って、走る。
ぬかるんだ土に足を取られて走りづらいが、気にせずにパシャッ、と水たまりをはじく。
揺れるリボンタイ、額にぺったり張り付いた前髪が、うざったい。
それでも、怒気で熱っぽい体を全力で動かした。
必死に手を伸ばす。
「あず、にぃ……っ!」
残りわずか数センチのところで、ちっぽけな手は雨雫にはねのけられて。
銀に透ける刃【ヤイバ】を、ツー、と鮮血が垂れていく。
ポタリ、ポタリ。
赤色が足元を染めていく。
「……っ、」
「し、しん兄……!」
リーダーらしき男の背後から忍び寄ったしん兄が、ナイフを静止させた。
手のひらで、ナイフを握って。
血だらけの手でナイフを奪い取り、リーダーらしき男の脇腹に蹴りを入れる。
敵から放れたあず兄を、私は慌てて支えた。
「あずきにこれ以上傷を負わせはしない!」
こんなに感情的になってるしん兄を、初めて見た。
赤に塗れても、体当たりで戦っているんだ。
過去の後悔をやり直すために。



