絶対領域





翠くんも昔は“こっち側”にいたのに、どうして今は“あっち側”に居るんだろう。



元から出来が違ったのかな。

それとも、何か、きっかけがあったの?



強くなれる方法があるのなら、なんだってやるから。


ねぇ、教えてよ。




「……でも、ある人に出会って、変わったんだ」


「その『ある人』って、前に言ってた、あの……?」



萌奈さんが思い出して聞くと、翠くんの表情はより朗らかになる。



「そう!僕を助けてくれた恩人であり、憧れの人」




そういえば、花火をした時に話していた。


憧れの人みたいになりたくて、翠くんは双雷に入ったんだよね。



確か……憧れの人に、萌奈さんが似てるんだっけ?




「さっきも言った通り、昔の俺って見た目も中身も暗くて、街でもよく絡まれてた。憧れの人と出会った日も、そう」



どしゃ降りの雨に寄り添うように、語られる。



「カツアゲされて、正直『またか』って内心うんざりしてたけど、当時は口に出せる勇気も逃げる度胸もなくて、ただただ怖がってた」



あぁ、わかる。

わかってしまう。



相手も同じ人間なのに、なぜかとても凶悪に感じて。


拒絶することすら恐ろしかった。



黙るか、従うか。

それしか選択肢がなかった。



「周りはいつも、見て見ぬフリ。目が合っても、逸らされる。皆、自分が第一で、自分が可愛い。そう思うのは当然だ。逆の立場だったら、俺だってそうしたと思う」



僕は、翠くんみたいに許せなかった。


なんで、どうして、と。

恨まずにはいられなかった。


偽善だってなんだってかまわなかったのに、期待する分だけ裏切られた。




――ユウだけが、僕に手を差し伸べてくれた、ヒーローだった。